2023年
代表理事 中谷 明
この四月一日にSLFは設立十周年を迎えました。設立以来、多くの市民の協働によって、ここまで来たことに感謝申上げますとともに、正直驚きも感じているところです。今は亡き矢冨さんとの思い出を交えて、十年を振り返りたいと思います。
●前史
二〇一〇年に東大高齢社会総合研究機構(IOG)、柏市、URの三者協定が交わされる。「エイジングインプレイス」を理念とした、豊四季台プロジェクトの始まりだ。その一環として生きがい就労プロジェクトも始まる。二〇一一年十一月、「セカンドライフの新しい働き方を創造する」をテーマに、秋山弘子先生の講演から始まり、約二年間七回にわたり継続的にセミナーが実施された。当時実務の中心にあったのが、IOG特任研究員の矢冨直美さん、木村清一さん。私はAKさんらと事務局としてそれをサポートする立場にあった。
柏市内中心に退職前後の人たち累計五百人内外が定年後の生活をどう送るか、大きな関心を持って参加した。グループワークだけでなく、実際に学習塾、保育園、生活支援、介護、農業等の分野で就労体験もして、それぞれの道を歩んでいった。
関連して、現在柏市はじめ全国で展開されているフレイル予防活動は、同時期にIOGの飯島先生が、就労プロジェクトに参加した人たちに対して、柏市内で健康調査を実施したいので協力してほしいという呼びかけから始まっている。
●設立時
二〇一三年四月、生きがい就労プロジェクトの研究成果を引継ぐ形でSLF設立となる。同時期に、シルバー人材センターへの成果継承の試みもより重点的に行われた。
組織名の中の「ファクトリー」は、研究成果を実践の中で具体化して創り出していこうという思いを込めて、設立の中心になった矢冨さんが考えたものだ。
就労プロジェクトに参加した人たちの中で設立に賛同して当初会員になったのは約百名、役員は代表理事矢冨さんほか理事六名、監事一名の構成。設立から現在まで残っている役員は、矢冨さんが昨年八月に急逝した後は、木村さんと私の二人となってしまった。歳月人を待たずの感がある。
一般社団法人としたのは、二〇〇八年に関係法が施行され、準則主義に基づき設立しやすくなったことが大きい。事務所は、矢冨さんが研究拠点として個人的に借りていた、東大柏キャンパスの隣にある東葛テクノプラザ六一三号室を間借りすることになった。
●設立後の経過
設立後の活動はIOG(東大高齢社会総合研究機構)で進めてきたプロジェクトの内容を概ね引継いだ。
主な業務としては、啓発活動としての講演会・勉強会開催、就労支援としての職能研修(剪定、生活支援、農業塾、保育補助等)、IOG・柏市からの業務受託、ホームページ作成ボランティア、仲間づくりのための趣味・健康に関する講座等が主なものである。
業務受託については、IOGの植物栽培ユニットの管理業務、柏市の「セカンドライフ応援窓口」開設業務の受託(二〇一四年から二年間)で具体化した。
ただ、自立できる組織活動としていくには、試行錯誤の連続で、様々な苦労が伴った。
●事務所移転
二〇一七年七月、東葛テクノプラザでの賃借可能期間満了に伴い現事務所に移転した。
移転を機に、かねてから矢冨さん考案・推奨の、認知症予防に資するという「脳トレ健康麻雀講座」を、スペースの有効活用という点からも開始した。当初は少人数であったが、サポーターのアイデアも加え、内容を見直しながら、現在総数約二百名の受講者で連日賑わっている。
新たな地域参加・交流の「玄関口」として、これをきっかけに活動の範囲を広げる会員も増えてきている。
矢冨さんは同年秋、山梨県の就労プロジェクト支援に専念するため、代表を辞し、笛吹市に移住した。
●現在につながるもの
当初の「セカンドライフ応援窓口」は、二〇一六年から市直轄の「柏市生涯現役促進協議会」として現在に至っている。SLFはその構成メンバーの一つとして協力している。
消えた企画が少なくない中、講演会は継続的に開催している。職能研修の中では、現在の農業グループ、剪定の「SLFガーデンサポート」、生活支援の「えんがわ」、趣味・カルチャーの「プチカル柏の葉」、「わいわいサロン」、そしてホームページ事業部などが、矢冨さんの熱い思いと、それぞれの分野での自発的な協働で、現在も発展的に活動している。
シニアの生きがい就労支援から始まった活動は、設立十年を経て必ずしも就労にこだわらず、フレイル予防と認知症予防を理念的な基礎としつつ、元気シニアの地域参加・交流を促し、健康維持と社会貢献の一助となる「場づくり」を目指す、自主的で幅広なボランティア活動へと展開してきている。
ただ、ここ二、三年は新型コロナウイルスの影響で、活動は全般的に停滞気味。講演会・ミーティングもZOOMを活用する機会が増えたが、コミュニケーション不足は否めない。
なお、今年三月に豊四季台プロジェクトの最後の社会的インフラというべき施設が構想から十年越しに完成・オープンしたことは大変感慨深い。ダンロップスポーツのスポーツジムとわとか食堂のコミュニティ食堂である。SLFとして、プレイベント支援、シニア就労支援等の面でわずかではあるが寄与できた。
●これからの十年
対外的には、一般社団法人として市民公益活動団体登録認可、ラコルタ柏利用団体登録認可、フレイル予防ポイント付与事業登録認可、柏・愛らぶ基金団体登録認可等、これまでの法人としての活動実績が認められつつある。柏市民活動フェスタ、ラコルタ柏フェスティバルには昨年初めて参加した。
将来を展望し、これらのネットワークを活用して、ほかの地域活動団体との交流・コラボの機会を模索している。
目指すところは、「地域の特性を活かした場づくり」をさらに進めることによって、元気シニアの地域参加・交流を促し、セカンドライフをより豊かで充実したものにしていくことである。
地域活動に特有ともいえる緩いつながりに起因する組織的脆弱性をSLFも有している。この脆弱性を少しでも抑える一方、法人格を持つ組織的活動力、千名以上の会員登録者数、自前の拠点・装備保有、IOGの生きがい就労プロジェクトの「遺伝子」継承等の持味を活かし、社会環境の変化に応じてどこまでブラッシュアップして次に引継いでいけるか、が将来に向けて大きな課題である。
最後に、矢冨さんの遺稿となってしまった小冊子「セカンドライフをどう生きる」の序の一節を引用して結びとしたい。
「多くの人は人生百年を想定すれば人生はあまりに長いという思いにとらわれるかもしれない。しかし、一方で何かを成し遂げようとすれば、人生はあまりにも短い、時間がない、という思いにとらわれる。」とある。今から思うといかにも暗示的で、心に刺さる言葉である。